【斉藤正行】ホスピス型ホームの問題点と誤解 現場の実態に合った建設的な議論を
ここ数年、主に終末期(ターミナル)の利用者、特定疾病を有する利用者らを対象としたサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどが、「ホスピス型有料老人ホーム」として注目されています。専業で株式を上場している会社もあるなど、全国で急速に拡大しています。【斉藤正行】
医療・介護の高い専門性に基づくサービスの提供が求められるなか、一部の事業者のコンプライアンス違反、専門性の不足、更には画一的な過剰サービスの提供など、様々な問題が見え隠れしています。
今年に入ってから、ホスピス型有料老人ホームのあり方に警鐘を鳴らす記事が、複数回にわたって地方新聞などに掲載されました。一部に悪質な事業者が存在するのではないか、または上場企業でも不適切な対応があるのではないかと指摘する内容で、業界に大きな波紋を広げています。
ただし、こうした記事はあくまで、退職した職員らを匿名で取材して得られた情報を中心にまとめられていました。対象法人の施設が、指定権者による監査などで指摘を受けている状況にはなく、冷静な受け止めが必要だと感じています。
しかしながら、新聞報道のような世論の高まりを受けて、厚生労働省は10月22日に1つの事務連絡を発出しました。
この中には次のように記されました。厚労省は改めて、画一的な過剰サービスの提供などを戒める姿勢を示した形です。
「訪問看護の日数等については、訪問看護ステーションの看護師等が訪問時に把握した利用者や家族等の状況に即して、主治医から交付された訪問看護指示書に基づき検討されるものであることから、訪問看護ステーションの看護師等が利用者の個別の状況を踏まえずに一律に訪問看護の日数等を定めるといったことや、利用者の居宅への訪問に直接携わっていない指定訪問看護事業者等が訪問看護の日数等を定めるといったことは認められないことに留意すること」
ホスピス型有料老人ホームの多くは、介護保険制度の訪問介護と医療保険制度の訪問看護などを組み合わせたサービスモデルです。政府の今年度の「骨太の方針」では、2027年度の介護報酬改定に向けて集合住宅での過剰サービスの対策を講じる方針が示されており、今後は厳しい改定の断行が予想されます。
加えて、事業者の収入への影響がより大きい訪問看護については、2026年度の診療報酬改定で見直しが行われることになるでしょう。現時点ではまだ、次期改定をめぐる具体的な問題提起はなされておりませんが、これまでの議論の経緯を踏まえると、次期改定に向けて本件が取り上げられることは想像に難くありません。
議論はまさにこれからであり、実際にどの程度のレベルで見直しが行われるか、報酬の適正化につながるかは今後の大きな注目ポイントです。
繰り返しますが、昨今の報道内容はあくまで一部の内部情報のみを基にしたもので、その真偽は不明です。指定権者による監査や指導がない中で、一方的に事業者を非難することは控えるべきであると思います。
もちろん、厚労省の事務連絡にも記載がある通り、利用者の状態にかかわらず一律に回数を定めた訪問看護の過剰提供は不適切です。ただし、1日あたりの訪問回数には一定の制限が設けられています。ターミナルの利用者に対しては、この制限の範囲内に訪問回数をとどめることが極めて難しく、結果として、ほとんどの利用者が上限回数に達している実態もあります。
加えて事業者は、上限回数を超えた報酬が生じない訪問も多数行っていると説明しています。このように、報酬上の訪問回数が一律となる利用者が多くなっている背景を、十分に理解しておく必要もあるのではないでしょうか。
いずれにせよ、訪問介護も同様ですが、利用者の状態にかかわらず画一的に過剰サービスを提供することは明らかな問題です。全ての利用者が、一言一句同じ内容のケアプランとなっている例を見聞きしたこともあります。
あくまでも、個別性を踏まえたケアプランに基づく訪問介護サービスの提供、主治医の指示書に基づく適切な訪問看護サービスの提供などが求められているのであって、結果として訪問が上限回数に到達することは問題にならないと思います。
ホスピス型有料老人ホームは、その名称もあくまで通称に過ぎず、公的に位置付けられているサービス形態ではありません。今後、このサービス形態の行方を議論することは、介護保険・医療保険全体に広く影響を及ぼすことでもあります。今こそ、現場の実態を正しく捉えた冷静な制度改革の議論が求められていると思います。