【青柳直樹】その病院付き添い、本当に必要? 介護施設のムリ・ムダ・ムラはオンライン診療でなくせる!
最近、介護施設でのオンライン診療の活用が少しずつ注目されるようになってきました。職員の業務負担、いわゆる3M(ムリ・ムダ・ムラ)の大幅な軽減につながるとともに、利用者へのサービスの質を向上させる効果も期待できるためです。【青柳直樹】
利用者の通院の付き添いが介護施設の課題であることは、もはや言うまでもありません。数時間で終わればまだましで、しばしば半日以上、時には1日近くかかるケースだってあります。その間、当然ながら職員は現場を離れなければならず、施設内の体制は一段と手薄にならざるを得ません。
青柳直樹|医師。2017年にドクターメイト株式会社を創設。日本ケアテック協会の理事も務める。介護施設が直面する医療課題に対応すべく、オンラインの医療相談や夜間のオンコール代行などのサービスを展開中。介護職の負担を減らすこと、利用者の不要な重症化、入院を減らすことなどに注力している。
病院で長く待たされた後の診察が、たった数分の簡単なやり取りのみで終わる、といったムダな待ち時間も多いです。とても効率的とは言えません。心ない言葉を口にする医師も、一部ですがいると聞きます。通院の付き添いは総じて、介護施設の職員にとって有益な時間の使い方になっていないのが実態ではないでしょうか。
◆ 待ち時間ゼロでムダなく医療へアクセス
介護施設でオンライン診療への関心が出てきたのは、こうした課題に起因する自然な動きなのかもしれません。コロナ禍もきっかけの1つになりました。
オンライン診療の最大の利点は、やはり通院の時間・手間がかからなくなることです。職員は現場を離れずに済み、医療者へより迅速にアクセスできるようになります。
こうした効率化の効果は小さくありません。
利用者の定期的な健康チェックや観察などを、より頻繁に行ってもらえるようになります。付き添いの負担がなくなるからこそ、医療者の目から見た利用者の健康状態をよりきめ細かく把握し、適切な対応を迅速に取れるようになるわけです。
結果として、利用者と職員の双方にとって都合の良いウィンウィンの環境をもたらすと言えるでしょう。
とりわけ、医師が少ない診療科では大きなメリットが生じます。例えば皮膚科や精神科。地域によっては通院が容易でないため、オンライン診療を活用しようとする介護施設が増えてきています。
◆ 対面の代替手段ではない
オンライン診療で本当に大丈夫なのか、と質を心配される方もおられるでしょう。もちろん、リアルの対面診療が不可欠なケースもあります。全てオンラインで済ませることはできません。
ただ一方で、症状を聞き取ったり患部の画像を見たりするだけで対応できる軽症のケースも少なくありません。
介護施設ではよく、日々の業務で忙しい職員が付き添いに対応できない事態が生じています。こちらの方がより大きな課題でしょう。通院が遅れ、利用者の症状が重くなってしまうことにつながります。
であれば、ムリなくオンライン診療を活用して早めに診てもらった方が、状態が深刻化する前に対策が打てる可能性が高まります。まずはオンラインで医療者とつながり、実際に通院すべきかどうかの指示を受けるのも良いでしょう。
オンライン診療は、単に対面診療の質を落とした代替手段ではありません。対面診療の前段階としても活用できる医療アクセスの選択肢なのです。
◆ 未来に向けた備えを
オンライン診療のもう1つの利点として、医師の診断や指導などの内容を確実に共有できる点があげられます。
対面診療の場合、医師の説明を聞いた付き添いの職員が介護施設に戻って他の職員に情報を伝える、いわば「伝言ゲーム」のような状況になりがちで、情報の精度にムラが出やすくなります。オンライン診療の場合、録画を残して事後的に確認したり、複数の職員が診察に同席したりすることも可能です。
技術的なハードルが下がったこともポイントです。今では一般化したZoomなどのツールが使われており、多くの介護施設では特別な設備投資も不要となりました。この手軽さが、介護施設でのオンライン診療の普及を後押しする一因になっています。
今後、介護施設では利用者の医療ニーズが更に高まっていきます。人材不足もより厳しくなると言わざるを得ません。医師の診察は全て対面で行う、その際は必ず職員が付き添うという運用は、現実的に難しくなっていくのではないでしょうか。
だからこそ、今から少しずつ取り組みを重ねていく必要があると考えます。皆様も個々の現場、地域の実情に応じて、最適なオンライン診療の活用方法を模索してみてはいかがでしょうか。