厚生労働省は来年度予算の概算要求で、訪問介護の“支援強化パッケージ”として新たに3つの対応策を提示しました。今回はその中身の検証とともに、改めて訪問介護の現状と今後を考察したいと思います。【斉藤正行】
まず、この支援強化パッケージの評価ですが、訪問介護事業者への支援策として十分ではないと言わざるを得ません。今年、事業者の倒産件数は過去最大の数で推移しており、その状況に歯止めがかかることはないと思います。
示された3つの対応策の中身は、
(1)訪問介護等サービス提供体制確保支援事業。地域医療介護総合確保基金を活用し、人材確保に向けた研修体系の整備、ヘルパー同行支援に係るかかり増し経費、経営改善に向けた取り組みなどを支援。
(2)人材確保に向けた福祉施策と労働施策の連携体制の強化。地域医療介護総合確保基金を活用し、人材確保に向けた取り組みを複合的に支援。
(3)ホームヘルパーの魅力発信の広報事業。5800万円の予算を活用し、ヘルパーの魅力を伝える広報を展開。
となっています。
こうした対応策は、十分な金額をもって実施されれば大きな効果を期待できる内容でありますが、残念ながら、(1)と(2)の予算は既存の基金を財源として活用することとされました。実施の判断は自治体の裁量に委ねられることとなり、支援が行われない地域も出てくることになります。
(3)の魅力発信は、是非とも重点的に実施してもらいたい取り組みですが、あまりにも予算額が小さいと言わざるを得ません。大手事業者1社の採用予算にも満たない金額で、全国20万人を超えるホームヘルパーの魅力を伝えることは不可能でしょう。せっかくの対応策でありながら、今回は予算額と措置方法が不十分なことから、満足な効果は得られないと思います。
それでも、支援強化パッケージを講じる方針が示されたということは、政府が訪問介護事業者に対する支援の必要性を認識しているということの現れであることは間違いありません。更なる対策につなげるため、来年度予算の上積みを求めるとともに、年末に調整される今年度の補正予算で追加措置を講じてもらえるよう、声をあげていく必要があります。
言うまでもなく、今年度の介護報酬改定において、訪問介護、定期巡回・随時対応サービス、夜間対応型訪問介護の3サービスは、基本報酬が引き下げられました。
とりわけ、全国に3万6000を超える事業所がある訪問介護への大きな影響が懸念されており、既に倒産件数の増加も招いています。マイナス改定の打撃が本格的にきいてくるのはこれからです。最低賃金の引き上げも含めて、更なる影響の拡大が予測されます。
今後は、サ高住などに併設されているか否か、都市部か地方かといった事業所の特性を考慮したきめ細かい実態調査が不可欠です。とりわけ、地方の訪問介護事業所を支える仕組みを本気で構築しなければ、地方の介護崩壊につながりかねない状況にあります。
訪問介護事業者も創意工夫が必要です。特定事業所加算をはじめとする加算の算定に向けた体制を構築するとともに、苦手な事業者も多いですが、生産性向上やDX推進の取り組みを進めなければ、事業の存続が難しくなりかねません。
官民が一体となって、地域包括ケアシステムの中核の1つである訪問介護の持続性の確保に向けた対策を、模索し続けなければならないと思います。