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2024年9月25日

【青柳直樹】戸惑う介護施設 協力医療機関の義務化に改善の余地 良い連携関係を作るには

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《 ドクターメイト株式会社・青柳直樹代表 》

やや無理があったのかもしれません。介護施設、医療機関が戸惑っています。必ずしも必要のない入院の増加など、本来の目的とは異なる結果を生むリスクもはらんでいます。【青柳直樹】

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今年度の介護報酬改定では、特養や老健をはじめとする介護施設に協力医療機関との連携体制の構築が義務付けられました。経過措置は3年間。2027年度から完全適用されるため、現場では既に介護施設が医療機関との協議など準備を進めています。



この協力医療機関には、複数の要件が設けられています。まずはそのポイントを改めて確認しておきましょう。

介護施設の協力医療機関の要件


(1)入所者等の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること。


(2)高齢者施設等からの診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること。


(3)入所者等の病状が急変した場合等において、入院を要すると認められた入所者等の入院を原則として受け入れる体制を確保していること。


※ 医療資源を効果的・効率的に活用する観点から、在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、地域包括ケア病棟(200床未満)を持つ医療機関、在宅療養後方支援病院などの在宅医療を支援する地域の医療機関との連携を想定。


※ 1年に1回以上の頻度で、利用者の急変時などの対応を協力医療機関と確認していくことが必要。


※ 概ね月1回以上の頻度で、利用者の病歴などの情報を共有する会議を開催するなどの要件で「協力医療機関連携加算」を算定できる。

もちろん、今回の義務化には大きな意義があります。


介護施設では利用者の医療ニーズが高まっており、医療機関との適切な連携体制の構築が欠かせません。今後、その重要性は更に増していくでしょう。医療と介護の結び目を強める方向性は妥当で、この施策は2024年度改定の1つの目玉と言うべきものです。

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◆ 連携先がなかなかない…


ただ実際は、対応に苦慮して頭を抱えている介護施設が少なくありません。率直に言って、今回の義務化は大きな課題を抱えているのではないでしょうか。


まずは協力医療機関が見つからないという話です。地域によっては、そもそも上記要件を全て満たす医療機関が近くにないところがあります。


これまで周囲の医療機関と密に連携してきた介護施設も壁にぶつかりました。協力医療機関の要件が明確化されたことで、連携先を他に変えなければならないケースが生じています。


協力医療機関を新たに見つけるのは大変ですが、義務化が迫る介護施設は必死に探すしかありません。必然的に、一部の医療機関に要請が集中してしまう地域が出てきています。


そうなると、今度は医療機関に重い負担がのしかかってきます。日々の業務で職員は忙しいわけですから、調整を円滑に進められなくてもやむを得ないでしょう。


◆ 食い違う両者の本音


同様に大きな課題として、介護施設と医療機関の思惑の違い、ズレがあります。


医療機関は常に収益だけを求めて動くわけではありません。そのうえで敢えて思い切って言うと、今回の義務化は医療機関にとってあまり旨味がありません。一定のインセンティブは用意されていますが、それは不十分と言わざるを得ない内容です。


ですから医療機関はこう思いがちです。「介護施設の利用者が多くうちに入院してくれれば…」。入院患者が増えるのであれば、介護施設の協力医療機関となって職員の負担、コストなどが増してもなんとか運用できる、という考え方です。


一方で介護施設は、利用者を安易に入院させたくないというところが少なくありません。本人・家族の希望を尊重したい、看取りなどの加算を取得したいと考えるためです。ここで両者に食い違いが生じ、調整は前へ進まなくなってしまいます。


医療機関からの入院を促す声に、介護施設が安易に、あるいはやむを得ず応じてしまうケースが増えていくと、今度は制度的に問題だと言わざるを得ません。何より大切なのは、不要な入院をできるだけ減らすこと、可能なら介護施設で対応していくことでしょう。今回の義務化が逆の効果を生むような事態は、避けなければなりません。

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◆ 要件の弾力化も要検討


それでは一体どうすればいいのでしょうか。まず国には、現場の実態を詳しく把握したうえで対策の検討をお願いしたいです。


協力医療機関の現行の要件は、地域によってはやはり厳しすぎると言わざるを得ません。特に医療機関の類型、規模には弾力化の余地があるのではないでしょうか。


また、協力医療機関の要件が現場レベルで十分に共有されていないことも否定できません。自治体によって解釈が違ったり、介護施設が誤った理解をしていたりすることもしばしばです。政策の意図やメッセージも含め、もう少し明確で分かりやすいアナウンスが介護側、医療側の双方に必要ではないでしょうか。


このほか、医療機関へのインセンティブを拡大するという視点も大事だと考えます。介護施設と医療機関の協議の場に、自治体がもっと介入した方が良いと思われる地域もありますので、あわせて検討すべきだと思います。


◆ 医療側の視点も考慮して


介護施設の皆さんには、医療機関との交渉に役立つポイントを私なりにあげさせて頂きます。相手の立場を考慮に入れて話し合いに臨めば、よりスムーズに進む可能性が高まるのではないでしょうか。


多くの医療機関はまだ、協力といっても何をすればいいのか、どれくらいの業務が追加で生じるのか、どれくらいの人員を投じるべきなのか、具体的なイメージを描けていません。その中で自分たちの立場や希望だけを伝えると、前向きな回答は得られにくくなるでしょう。


相手は制度をどう捉えているか、何を重視しているか、自分たちは何を目指すのか。


胸襟を開いたコミュニケーションにより、その辺りをお互いにすり合わせていくことが肝要です。そうでないと、後になって関係が悪くなったり、連携の実態が趣旨から外れたりすることになりかねません。


介護施設としては、協力医療機関の選定とセットで加算(協力医療機関連携加算)も取りたいと考えるのが普通でしょう。ただそれは、相手にも追加的な負担がかかってくる話に他なりません。取り組みを急ぎすぎると失敗しかねませんので、十分な配慮が必要だと思います。


理想を言えば、日中の受診などを促して利用者の状態の悪化を防いでいく、不要な入院は避けて社会資源をより有効に活用していく、という視点を持って協議を進めて頂きたいです。医療機関との正しい協力関係の構築が、皆さんの献身的な介護を後押ししてくれるでしょう。


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