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2024年8月29日

【斉藤正行】介護事業者の経営情報報告の義務化、皆で意義ある制度に! 事務負担の軽減も不可欠

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《 全国介護事業者連盟・斉藤正行理事長 》

全ての介護事業者に経営情報の毎年の報告を義務付ける制度が、今年度から新たに導入されることになります。今月2日、厚生労働省よりその内容や留意点などをまとめた通知が発出されました。【斉藤正行】

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この新たな制度は、昨年の法改正で導入が決定されていました。この度、より具体的な中身が見えてきたことになります。厚労省は現在、介護事業者が経営情報を報告するツールとして「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」の整備を進めており、来年1月から稼働を始める予定です。

※ 制度の概要やポイントはこちらの記事で


※ 介護事業者が報告すべき経営情報の内容はこちらの記事で

この報告の義務化は、介護事業者にとって大変厳しい施策と言わざるを得ません。事務負担が更に大幅に増えることにつながるためです。極めて厳しい人材不足の状況下で、事務負担をできるだけ軽減することが業界の重要な課題として提起されているなか、現場からは不満の声が多くあがっています。


厚労省もそうした声は理解しており、事務負担を少しでも軽減できる仕組みを検討しているようです。


例えば報告の期限。毎年の会計年度終了後から3ヵ月以内が原則ですが、これは各社の決算期の違いに配慮し、全ての事業者に一律の期限を守らせる運用はせず、個社の決算期に応じた提出も認める考えを示しています。


ただし、初回の今年度の報告に限っては、今年度中(来年3月)までに報告する決まりとなっており、今年12月末までの最新の決算情報を適宜報告する必要があります。

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いずれにしても、介護事業者にとって重い追加的な事務負担が生じることは間違いありません。引き続き、少しでも負担軽減につながる運用の工夫を求めていくべきと考えています。


一方で、この報告の義務化は法律に基づいて既に正式に決定された制度変更です。そうであれば、決められたルールを意義ある成果へとつなげる有効活用が重要ではないでしょうか。


そのためには、まず、そもそもこの制度が導入された意義をしっかりと理解することが大切です。


この制度の導入目的は、「介護事業者の経営状況を“見える化”し、経営実態をより正確に把握・分析できるようにすること」にあります。3年に1度の介護報酬改定や介護職の処遇改善など、今後の重点施策の精度向上につなげる狙いがあるのです。

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介護事業者の経営状況は現在、国の「経営実態調査」などで一部の事業所について明らかにされています。ただ、調査票の回収率は毎回50%を下回っており、「実態が正確に掴めていないのではないか」という問題も提起されてきました。


この「経営実態調査」で示されるサービスごとの収支差率(いわゆる利益率)に、大なり小なり違和感を覚えている方も多いのではないでしょうか。回収率がさほど高くないなか、経営に余裕のある事業所の回答が集まりやすい結果として、実態よりも高い収支差率となっている可能性も指摘されています。


また、直近の経営実態調査では、訪問介護の収支差率が著しく高い(+7.8%)と報告されました。このデータが、今年度の介護報酬改定による基本報酬の引き下げにつながりました。ただし、集合住宅の併設事業所とそうでない事業所の違い、都市部の事業所と地方の事業所の違いなど、より詳細な分析が十分でなかったという課題も指摘されているところです。


このような状況の中で、今回、全ての介護事業者に経営情報の毎年の報告が義務付けられました。事業者にとって負担増となることは間違いありませんが、皆様には是非、制度の意義・目的を正しく理解したうえで、正確な経営情報をルールに基づいて報告して頂きたい。


その結果として、国の適切な経営支援や報酬改定の実現につながるようにしていく、という発想が求められるのではないでしょうか。


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