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2024年8月13日

【天野尊明】介護事業は「人」が全て! 職場環境の実質を改善する事業者への高い評価を

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《 介護人材政策研究会・天野尊明代表理事 》

先日、厚生労働省が自治体の介護保険事業計画に基づく今後の介護職員の必要数を公表しました。2040年までに約57万人(1年あたり約3.2万人)の増員が必要、というニュースをご覧になった方も多いのではないでしょうか。【天野尊明】

この数字は元々、自治体のサービス見込み量などに基づく推計値に過ぎないものです。かねてから、介護関係者の間では「楽観的な数字」と見られがちでした。


まずもって、1年あたり約3.2万人の増員が必要ということですが、同じく厚労省から示された介護職員数の推移を見る限り、令和に入って以降それが達成された年度はひとつもありません。それどころか、昨今では離職が入職を上回る「離職超過」さえ報告されています。


更に、人口動態上避けられない働き手の急減に加えて、改定を重ねる度に難解さを増すサービスのルールや内容、介護ニーズの多様化・複雑化で人員の加配が避けられない状況なども踏まえれば、この必要数が達成されるとみている人はどこにもいないのではないでしょうか。


介護人材不足が社会問題化して15年以上に及ぶなか、この現状をどう評価するかは私が敢えて言うまでもないことですが、さりとて介護事業者の皆様は投げ出すわけにもいきません。そこで重要になってくるのが、やはり「政策を読み解く」ということになるのだろうと思います。


筆者が介護関係者によくお話することのひとつに、「基本報酬は足切り、加算はご褒美の仕組み」というものがあります。


介護保険制度が元来、要介護者の尊厳の保持と自立支援を目的とすることは承知していますが、逆に言えば、そのために最低限保つべきサービスの質に基づく基本報酬と、厚労省が推奨する取り組みの実践を評価する加算とでは、性質が異なります。これは介護事業に携わる方であればどなたも実感されていることでしょう。


その点から、今年度の介護報酬改定で最大の目玉となった処遇改善加算の一本化にあたり見直された点を改めてみると、「職場環境等要件」が重点的にテコ入れされていることが分かります。中でも職員の定着促進、とりわけ「生産性向上(業務改善や働く環境の改善など)」に関する要件が大幅に拡充されました。

このことを前述の「加算はご褒美」という考え方に照らせば、厚労省が介護人材確保の対策で事業者に望むことの第1歩が、「生産性向上を軸とした定着促進」であると考えることができます。介護現場において、従事者目線に立った職場環境の“実質の改善”がない限り人材の定着は成らず、ひいては数的確保にも根本的な答えが出てこないということについては、筆者も確信に近い思いを持っています。


これまで15年以上にわたって、とかく介護現場の「イメージアップ」が叫ばれてきました。しかし、そこにはやはり「実質」が必要不可欠です。現に離職超過が発生している以上、介護従事者の方々が利用者の笑顔や感謝の言葉だけを糧に、善意や熱意を頼りに何十年も仕事を続けていけるわけがないことは明らかです。


もちろん、他産業に負けない賃上げや無理・無駄のない制度設計を絶えず求めていくべきであることは言うまでもありません。


しかし同時に、職場としての介護現場の実質をより良い方向へ変えていく政策により、介護従事者の目線に立った環境改善に向けて事業者のチャレンジを促していくことも、この深刻な人材難を乗り越えていくための重要なテーマです。その一端が新しい処遇改善加算の要件に表れていると考えれば、今なお非常に面倒な算定手続きについても、少し違った見方をして頂けるのかも知れません。


我が国における介護事業経営は、そのコストの大半を人件費が占めています。それだけに「人」が何よりも重要であることは疑う余地がありません。


「人」を第一に考え、職場環境の実質を改善する事業者こそが高く評価される制度づくりは、未来への回答のひとつになるのではないでしょうか。政府にはこうした施策を更に強化して頂きたい。現在、多くの事業者の皆様が積極的な取り組みを重ねているところですが、そうした動きを一段と後押しすべきだと思います。


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