【黒澤加代子】効率化の光と影 便利な時代に生きづらい方がいます 訪問介護の現場から
私たち訪問介護の担い手は、外出や通院、買物などで地域の社会資源を最大限に活用しながら支援にあたります。このため、高齢者や障害をお持ちの方の生活のしずらさを感じたり、新たに発見したりすることがよくあります。【黒澤加代子】
◆ 元気だから見えないこと
昨今では社会の機械化、ICT化が進んできました。これは訪問介護の業務にも少なからぬ影響を与えています。
例えば通院同行介助。大きく変わった病院のシステムに戸惑うこともしばしばです。
大きな病院の入口では、何台も並ぶ自動受付機に診察券を通して予約内容を確認。タッチパネルで画面を操作し、印刷された受付表に記された順番に院内を移動します。自己負担分の支払いは自動精算機。表示される指示に従いながら何とか対応します。
スーパーも「セルフレジ」が多くなりました。私は東京都内で活動していますが、店員さんがレジにいて現金を扱う店舗は少なくなりました。
今のところ、私は特に問題なく対応できているつもりです。ただ、高齢者や障害者が便利な世の中になかなかついていけず、私たちヘルパーの出番が多くなっていることも確かです。
先日の買物同行では、ご利用者が自動精算機に「ポイントカードをお持ちですか?」「お金を入れて下さい」などと繰り返し音声で求められ、「持ってるわよ!今入れるわよ!」とイライラされていました。
「今お財布出してるの!もう!だから機械は嫌なのよ!憎たらしい!待ってなさい!」
こうぶちまけるご利用者と一緒に、2人で大笑いしながらお店を出てきました。機械の応対スピードの速さが、高齢者には「せかされる」「焦って余計できなくなる」と捉えられているようです。
高齢者が多く住む団地の近くのスーパーでは、店員さんがいて現金を使えるレジが混み合っています。商店街の小さなスーパーは、店員さんが袋詰めまで手伝って下さるため大人気です。
先日、大型スーパーでご利用者の車椅子を押しながら買い物をしている時に、袋詰めの台まで率先してかごを運んでくださる店員さんにお会いしました。本当にありがたかったです。私たちヘルパーは、地域の方々にも高齢者や障害者、認知症の方についてご理解頂くことの大切さを、日々の仕事を通じて強く感じています。
このほか、郵便物の再配達の電話が自動音声ガイダンスのためうまく対応できず、ヘルパーが来るまで待っている方もいました。駅のアナウンスや切符の買い方などが変わったため、以前より移動しにくくなったと感じる方もおられるようです。これらはほんの一例で、元気な私達が未だ気付いていない生活のしずらさは、もっともっと多くあるのだと思います。
◆ 高まるハンドケアの必要性
もちろん、社会の様々な仕組みをより効率的にしていくこと、より便利にしていくことは大切です。
ただ、時代に沿った社会資源の変化に十分に追いつくことができず、結果的に自立を妨げられている方もおられるのではないでしょうか。耳が遠くなったり、目が見えにくくなったり、記憶が曖昧になったりしていく中で、自分ではまだ「自力でなんとかしたい」と思っていたとしても、社会から取り残されたような喪失感を感じる方もおられるのではないでしょうか。
また、少しのサポートさえあればご自身で対応できるという方も多くおられます。私は最近、訪問介護の役割にそうしたサポートをすること、時代の変化を伝えることも含まれると強く感じます。ただ、介護・障害福祉の現場は人手不足が極めて深刻になっているため、やはり地域の力も重要ではないでしょうか。
「相手の立場に立つ」とはよく言ったものです。自分が健康だからこそ気付かないことが沢山あります。それはご利用者が教えて下さります。生活のどこに不自由さを感じるのか、老いとはどういうことなのか。見えないものを見ようとする力、決して色眼鏡で見ない力が介護職には必要だと改めて感じました。
同時に、高齢者の中にも時代の変化を楽しまれている方が大勢います。スマホを操作し、LINEなどを使ってご連絡を下さるご利用者もいます。インターネットで買い物を楽しむ方も少なくありません。新しい仕組みと出会い、ご利用者と一緒に悩み、考え、楽しむこともできています。
「年寄りを笑うな。いつか行く道」。ご利用者に教えて頂きました。急速にオートメーション化されていく世の中だからこそ、ハンドケアの必要性も高まっているのではないでしょうか。地域包括ケアの1つの要素として、地域の方々や子供たちにも投げかけていきたいことです。