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2024年7月11日

【片岡眞一郎】介護テクノロジー開発事業の難しさ 現場で役立つ機器を普及させるために

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《 NTTデータ経営研究所・片岡眞一郎氏 》

介護人材不足の対策の1つとして注目を集めているのが介護テクノロジーだ。【片岡眞一郎】

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今年度の介護報酬改定で「生産性向上推進体制加算」が新設され、見守り機器・インカム・介護記録の作成を効率化できるICT機器を導入していることが要件とされるなど、介護事業所にとって介護テクノロジーは重要なツールとなっている。


また、厚生労働省と経済産業省が定めている「ロボット技術の介護利用における重点分野」が改訂され、2025年4月から「機能訓練支援」「食事・栄養管理支援」「認知症生活支援・認知症ケア支援」の3分野が追加されることになった


このような背景の中で、近年、介護テクノロジーに関する事業を成長事業として経営計画に盛り込む開発企業が増えてきた。介護領域の見本市やイベントなどでも、様々なスタートアップを含む開発企業を目にする機会が多くなっている。


しかしながら、介護テクノロジーに関する事業は、他業界のやり方をそのまま転用することが難しい領域でもある。


国の「介護現場におけるテクノロジーの実態調査(令和3年度厚生労働省老健事業)」によれば、介護分野に参入した企業の54.2%が「収益をあげるのは難しい」と回答した。ここからも分かるように、期待通りに事業を成長させていくことに苦慮しているケースも多い。

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その理由の1つが、介護業界には様々なサービス分類が存在することである。訪問系、通所系、施設系など多様で、例えばターゲットを訪問介護とするか特別養護老人ホームとするかで、作りあげる製品・サービスは大きく変わってくる。また、製品・サービスのターゲットは自立度が高い方か、介護度が高い方か、といった観点も重要になってくる。


介護業界の特筆すべき点として、お金を支払う方が本人、家族、介護事業者などそれぞれ異なる点もあげられる。例えば見守り機器。家族や事業所は親・高齢者をなるべく見守りたいと考えているものの、本人は見守ってもらう必要はないと感じているケースもある。

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マネタイズのビジネスモデルをどう設計するかも重要な視点だ。製品とサービスの内容を踏まえて、高齢者、職員、事業所にとってよりプラスとなる仕組みを設計する必要がある。


例えば、排泄介護に役立つ介護ロボットを作ろうとした場合、排泄の予測、排泄の支援、排泄物の処理などの機能が考えられる。排泄介護は大きな社会課題であるものの、実際の製品・サービスは、例えば排尿を予測する介護ロボットのように、排泄介助の一部の業務を支援する機能にとどまることが多い。


排尿の予測といった製品機能から、その予測を踏まえて適切な介護職のスケジュールを設計したり、排尿データから疾病を予測したりする機能へ拡張するなど、一側面からどうやって幅出しできるか、成長させていけるかを描くことがポイントになってくる。


介護人材の需給ギャップが拡大していく中で、現場に即した介護テクノロジーがもっともっと普及していけば、介護が必要な高齢者をより多く支えることができる。


国は既に、全国の介護現場が抱えている課題(ニーズ)と、開発企業が保有する製品・要素技術などのマッチングを支援する「ニーズ・シーズマッチング支援事業」を行っている。また、介護テクノロジーの開発についてまとめた「介護テクノロジー開発ガイドブック」といったツールも公開している。


開発企業と介護現場が双方で知恵を出し合いながら、もっともっと現場にとって役立つ機器が開発され、普及していくという好循環につなげていきたい。


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