【解説】生産性向上って誰のため? 言葉の意味と取り組みの向こう側に見えるもの
新年度の介護報酬改定では、多くのサービスを対象に生産性向上推進体制加算が新設されるなど「生産性向上」という言葉が大きく取り扱われています。【足立圭司】
我が国の介護分野でこの「生産性向上」という言葉が本格的に使われるようになったのは、厚生労働省が「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を策定した2019年頃からです。以来、厚生労働省では事例集の策定や動画コンテンツの整備など様々な事業を通じて、介護現場の生産性向上に向けた活動の促進を図ってきました。
ただ、この言葉が本来持つ意味に抵抗感を持つ介護現場も少なくないと思います。
そこで今回は「生産性向上ガイドライン」を紐解きながら、介護現場における「生産性向上」について考えてみたいと思います。
一般的に生産性というと、製造業などで培われてきた労働生産性を指すことが多いのではないでしょうか。労働生産性とは、単純に表現すれば単位投入量(input)当たりの生産量・額(output)ということになります。
しかし、この概念をそのまま介護現場に適応することは困難です。そこで先程の「生産性向上ガイドライン」を見てみると、次のような記載があります。
「本ガイドラインでは、『1人でも多くの利用者に質の高いケアを届ける』という介護現場の価値を重視し、介護サービスの生産性向上を『介護の価値を高めること』と定義しています」
また図を用いて、介護サービスにおける生産性向上とは次のように読み替えられると示されています。
「要介護者の増加やニーズがより多様化していく中で、業務を見直し、限られた資源(人材等)を用いて1人でも多くの利用者に質の高いケアを届けること。また改善で生まれた時間を有効利用して、利用者に向き合う時間を増やしたり、自分たちで質をどう高めるか考えていくこと」
このように、介護サービスにおける生産性向上の取り組みとは、介護サービスの質の向上や人材の定着・確保を目的とした働きやすい職場環境づくりの活動と捉えることができます。
さらに、生産性向上ガイドラインでは生産性向上に向けた取り組みを7つに分類するとともに、取り組みの具体的な進め方を6つのステップで解説しています。ここでは詳細な紹介は割愛してガイドラインにゆずりますが、このガイドラインをもとに生産性向上に取り組んだ介護事業所からは、自分たちの職場を自ら改善できた、またその結果として、サービスの質の向上にもつながったという声が届いています。
現状の人手不足と今後の介護需要の増大を踏まえれば、生産性向上の取り組みは介護現場にとって極めて重要です。どうしても避けて通れない課題と言えるでしょう。
厚生労働省や都道府県では、相談窓口の設置や研究会・セミナーの開催などを通じて介護現場の取り組みを支援しています。また、これらの事業の内容は介護分野における生産性向上ポータルサイトで紹介されていますので、是非活用してください。