2024年の介護保険法改正をめぐる審議の中で、介護保険施設にとって、今後の事業経営を左右する激変の可能性が出てきている。今、特別養護老人ホームの入所要件を、要介護1以上とする論点が浮上している。【小濱道博】
特養は、介護保険制度のスタート以降、要介護1以上が入所要件であったが、2015年の制度改正において要介護3以上とされた。その理由は、2014年時点で待機者が50万人を超えていたためである。待機者が年々増え続ける状況下で、最も入所を必要とする重度者を優先させる目的があった。
しかし、2019年調査において、待機者は29万人に大きく減少した。経営状況が悪化する施設も出てきている。地域によっては、人材不足で人員基準を満たせないことなどを理由として、自主的に空床を発生させている施設も見受けられる。それらの現状を踏まえて、特養の入所要件を再び、要介護1以上とする論点が出てきた。
さらに、介護老人保健施設や介護医療院の多床室料を全額自己負担とする論点もある。これは、3年前の審議で先送りされたものが、再び議論の対象となっている。
前回の先送り理由は、介護療養型医療施設の2024年3月の廃止に伴う介護医療院などへの移行手続きに、多床室の自己負担化はネガティブな影響が避けられないとして、転換を優先させたことにある。しかし、特養では多床室料は全額自己負担であり、次回改正では、すでに介護療養型医療施設は廃止後で存在しない。すなわち、支障が無いと言える。
これらの論点が実現した場合、確実に長期滞在型の老健の経営を直撃する。
長期滞在型とは、基本報酬で、「その他型」「基本型」を算定する施設である。これらの特養化した、お預かり中心の施設を、2024年改正が直撃する可能性が高まっている。多床室料が全額自己負担となった場合、特養との月々の利用者負担額の差が大きくなり、老健の長期滞在者は、割安感の増した特養に移動するだろう。
老健の介護報酬単価を見たときに、明らかに特養より高いにも関わらず、この長期滞在型の事業運営が維持できる理由は何か。それは、老健では、多床室に介護保険が適用されているため、特養との実質的な支払い金額に格差が少ないことが大きい。
今、特養の待機者が大きく減少し、空床も生じている現状から、特養はその受け入れが可能で、入所者の移動が起こることが想定される。さらに、特養で要介護1以上の入居を可能とする改正が行われた場合、軽度者であり、特養に入居できない事を理由として老健にいる入所者の移動も想定しなければならない。
該当する老健は、早期に長期滞在型から脱却して、基本報酬の最高位である超強化型を目指すべきだ。また、病院と在宅との中間施設であるという原点に立ち返って、短期集中型のリハビリテーションに徹底して取り組み、成果を求めるべきである。そのためには、LIFEの活用を積極的に行っていくことが重要だ。
その他にも、自己負担2割の対象の拡大という論点も介護施設経営を直撃する課題となっている。特に老健の経営陣は、危機感を持って、改正審議を注視しなければならない。