【総括】今回の介護報酬改定は「大変革の土台固め改定」 訪問介護の報酬引き下げには強い危機感=斉藤正行
1月22日に開催された国の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で、来年度の介護報酬改定の全容が決められました。
◆ 在宅介護の崩壊につながりかねない
全体の改定率は1.59%(うち0.98%は処遇改善、0.61%を事業者へ配分)。過去2番目に大きな上げ幅であり、ほとんど全てのサービスで基本報酬がしっかりとプラスになりました。新たな加算の創設や既存の加算の拡充などもあり、介護事業者にとって総じて歓迎できる内容と言えるでしょう。とりわけ、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設は、大きな報酬プラスとなっています。
また、処遇改善加算は新たに一本化されるとともに、単位数も大きく引き上げられました。理論値では、2年分で4.5%の賃上げが可能な水準となり、他産業の賃上げに引けを取らない対応が可能となります。
しかしながら、直近の「経営実態調査」の結果で収支差率が高かった訪問介護、定期巡回・随時対応サービス、夜間対応型訪問介護、訪問リハビリテーション(予防のみ)の4サービスは、まさかの基本報酬マイナスとなりました。あわせて、集合住宅に対する訪問介護の減算措置の拡大も講じられています。
とりわけ、全国に3万6千を超える事業所がある訪問介護の基本報酬のマイナスは、地方の在宅介護現場の崩壊につながりかねないと強い危機感を覚えます。
直近の収支差率は確かに7.8%と平均(2.4%)を大きく上回る数字でした。ただ、集合住宅併設の事業所や都心部で効率良く運営できる事業所が収支差率を押し上げていると考えられ、地方の事業所の経営は決して安定しているわけではありません。
将来に対する不安や心理的影響などで訪問介護事業所の撤退が加速し、将来、地方での在宅介護サービスの供給量不足が生じるのではないかと懸念されます。
せっかくの大きな上げ幅となる報酬改定でありながら、業界として素直に喜べない結果となってしまったことは、残念であり、有効な予算活用とは言えないのではないでしょうか。
◆ 変革の意識、忘れずに
全体として、今回の改定に敢えてタイトルをつけるとするならば、「賃上げ改定」という表現が適切だと思います。何よりも最優先されたのは職員の処遇改善でした。
事業者は、一本化された処遇改善加算を確実に算定し、公平かつ適正な評価に基づき、職員へ納得感ある原資の分配を行うことが何よりも大切です。同時に、その分配方法について職員へしっかりと丁寧に説明して頂きたいと思います。
今回は6年に一度の医療・介護・障害福祉のトリプル改定でありながら、前回改定ほどの“変革インパクト”はないと言えるでしょう。しかしながら、改革の歩みが減退しているという誤った認識を持ってはいけません。
今回の改定の基本的視点は、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「自立支援・重度化防止に向けた対応」「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」「制度の安定性・持続可能性の確保」の4つ。こうした考え方に基づく見直しが、幅広く実施されることになります。
例えば、LIFEに関連した「科学的介護推進体制加算」について、点数の拡充や新たなサービスの追加はありませんでしたが、入力項目の簡素化や提出時期の統一、フィードバックの充実などが行われる予定です。新たな試みを行うのではなく、前回改定の課題をしっかりと整理したうえで、着実に現場へのLIFE定着を目指す − 。これが国の方向性です。
一方で、いくぶん踏み込んだ改革が進められたテーマは「生産性向上」「DX推進」です。居宅介護支援の逓減制の更なる緩和、施設にロボット・ICTの活用を促す新加算の創設、特定施設の人員配置基準(3対1)の特例緩和などが決まり、こちらは現場へ変革を迫る強いメッセージとなりました。
今回の改定は、「将来の大変革に向けた土台固めの改定」と位置付けることもできるでしょう。
コロナ禍や欧州での戦争に端を発した物価高騰など、極めて異例ともいえる社会情勢の変化によって大幅なプラス改定となりましたが、今後はこうした大幅なプラス改定の実現可能性は低いと言わざるを得ません。長期視点で考えれば、報酬削減とともに大きな制度改革が行われていくことになると思います。
今回の改定では、どうにかプラス改定を確保できました。これからは将来の大変革に向けた土台固めのための3年間 − 。事業者はそう理解し、運営改革・現場での介護のあり方の変革が不可欠であるということを、改めて肝に命じなければなりません。