daiichihoki-2024.11-sp2-banner1
2023年11月14日

介護報酬改定、居宅ケアマネの重大局面 必要なのは運営基準の緩和か 質の担保はどこへ行く=結城康博

このエントリーをはてなブックマークに追加
《 淑徳大学総合福祉学部 結城康博教授 》

来年度の介護報酬改定を議論している審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で今月6日、厚生労働省が居宅介護支援の運営基準の見直しを提案した。【結城康博】

xbit-2024.11-sp02-banner01

これらはあくまでも「案」であって最終決定ではない。しかし今回の内容には、元ケアマネジャーとして介護保険の変遷を見てきた筆者として、「いよいよここまで来たか!」という印象を受けた。


◆ モニタリングが月1回ではなくなる?


厚労省は審議会で、訪問によるモニタリングの頻度を毎月1回から2ヵ月に1回とすることを認める案を提示。その代わり、テレビ電話(ビデオ通話)を活用したモニタリングを毎月行うこと、他のサービス事業所と連携することなどを求めてはどうかとした


つまり、現行の1回分の面談をテレビ電話などで代替する運用を容認していくというものだ。ケアマネの訪問負担の軽減につなげる狙いがある。


ケアマネ不足は既に深刻化しており、現場の業務負担は実際に厳しい。これを踏まえ、ICTなどを活用して生産性の向上を図る方策と窺える。


確かに、ケアマネの負担軽減の必要性は理解できる。しかし、訪問によるモニタリングをテレビ電話などで本当に代替できるのだろうか。


例えば部屋の状況、利用者の生活感、怪しい営業チラシがあるか否かなど、毎月1回の訪問によって得られる情報は無限大だ。仮に2ヵ月に1回の訪問となれば、それだけ利用者の情報を得ることは難しくなる。他のサービス事業所から情報を得るにしても、ケアマネの視点でなければ難しい側面もあるのではないだろうか。

doctormate-short_article-2024.3-sp-lead-banner01

◆ 逓減制の緩和、本当に大丈夫か


6日の審議会では、居宅介護支援の基本報酬の逓減制を更に緩和する案も示された。厚労省の提案は次の通りだ。

《 厚労省案:逓減制の更なる緩和 》

居宅介護支援費(I)=現行は40件からの適用だが、これを45件からの適用とする。

居宅介護支援費(II)=現行は45件からの適用だが、国のケアプランデータ連携システムの活用などを新たに要件として加えたうえで、50件からの適用とする。

確かに、一部の優秀なケアマネであれば、担当件数が増えてもサービスの質を落とすことなく業務を遂行できるだろう。


しかし、担当件数が増えれば1人の利用者に割く時間はどうしても限られてくる。全体としては質の担保が危ぶまれるに違いない。まして、いくらICT化を進めたり事務職員を配置したりしたとしても、減算の適用を50件からとするのは問題ではないだろうか。

joint-seminar-2024.3-lead-banner01

◆ ケアマネの事務員化が加速


このような厚労省の提案は、ケアマネジャーを事務員化させていくことにつながりかねない。専門職としての魅力を徐々に奪い取ってしまうのではないだろうか。


今でも「研修が多い」「事務仕事が多い」「利用者と話す時間がない」「実地指導に追われる」といった業務負担によって、本来の専門職としての魅力が低下していると考える。ケアマネジャーの本来の業務は、しっかりと利用者や家族と向き合い、相談を受けながら関係機関との連携を密にして、十分なサービス提供のマネジメントをすることである。

kaihokyo-2024.10-lead-sp-banner01

◆ 先にやるべきことがある!


確かに、ケアマネジャーの人材不足は顕著で対応策が急がれる。しかし、今回の厚労省提案では、サービスの質の低下を招きかねない。何よりも専門職としての魅力を低下させ、ケアマネがますます不人気になりかねないのではないだろうか。


人材を確保したいなら優先すべき施策がある。まずは第1に、ケアマネ試験(実務研修受講試験)の受験資格の緩和だ。第2に更新制の廃止(廃止が難しければ大幅な簡略化)。第3に処遇改善の措置(賃金補助や加算など)を実施すべきではないだろうか。


制度ができて23年。今、居宅ケアマネをめぐる施策は介護保険の歴史上で極めて重大な局面を迎えている。その方向性を間違えると、ケアマネ不足は一段と深刻化していくに違いない。


Access Ranking
人気記事
介護ニュースJoint