【小濱道博】介護事業所の実地指導がコロナ後で大幅に増加へ そのチェック体制、本当に大丈夫?
昨年度から介護施設・事業所への「実地指導」の名称が「運営指導」に変更された。今年5月8日に新型コロナウイルスが「5類」へ移行したことにより、自治体からの運営指導の事前通知書が全国的に飛び交っている。今年度は過去最大の指導件数となる勢いである。【小濱道博】
◆ 運営指導に見るコロナ禍の影響
コロナ禍の影響で指導の延期や中止が相次ぎ、従来は2年から3年だった運営指導の間隔が5年、6年と開いている。
この間に介護保険制度も介護報酬も変わった。しかしながら、集団指導はオンラインでの実施となり、セミナーの開催も大きく減少した。それ以上に、外部研修やセミナーへの参加を禁止する施設・事業所が相次いだ。このため現場は、制度改正などの情報を得る機会が少なくなっている。
その結果、職員レベルで適切に対応できていない施設・事業所が増えている。更に、担当者が代わったり退職したりしている場合、後任への引き継ぎが全く行われていないケースも多く見かける。
コロナ前は2年から3年程度で役所が指導に来てくれたため、誤った制度の解釈があっても短期間で是正できた。それが、長期間にわたり誤った知識・解釈で運営が続けられてきたらどうなるか。
この加算を取っていることを知らなかった − 。必要な集計作業を誰が行っているか分からない −。過去の計画や記録がどこに保管されているか分からない − 。
こうした言葉が現場の職員から聞こえてくる。このような状況になっている施設・事業所に運営指導が入り、多額の返還指導となった事業者も現実にいる。
◆ 運営指導に備える
事前の運営指導対策として、内部監査体制を強化すべきである。介護サービスは、規模の利益を追求するのが基本的なビジネスモデルだ。事業規模の拡大に気を取られて、基本的なコンプライアンス対策が後手後手に回っているところも多く見かける。
早期に内部監査システムを構築して、運営指導を前提とした定期的なチェック体制を構築することが重要だ。
内部監査システムの構築にあたっては、第一段階として、現時点でのコンプライアンスチェックを外部の監査人によって実施し、問題点や監査のポイントを把握する。その現状確認と分析を行ったうえで、監査マニュアルとチェックリストを作成する。
また、内部監査のみだと、どうしても身内意識もあって遠慮が出てくる。よって年に1回から2回は、外部からの監査チェックを実施することも大切だ。ぜひ、コンプライアンス部門を設置して頂きたい。
また、介護保険制度は記録主義で、記録があって初めて認められる世界である。運営指導で何か問題が起こった時に、守ってくれるのは記録だけである。
このため、記録は日頃から漏れなく記載する癖をつける必要がある。簡潔に、5W1Hを基本に記載する。運営指導での記録関連の指摘事項は、その多くが表現の曖昧さである。具体的でない、という文章表現の問題で、誤字脱字の多い場合も指摘される。ただ長いだけの文章も不可である。
今の時代、記録は手書きよりも介護ソフトを活用して、パソコンやタブレットに直接入力することが多くなっている。介護報酬請求や各種帳票までを一気通貫で処理するシステムも増えてきた。その入力方法も簡素化されていて、基本的な文章がシステムで複数用意され、ただ選ぶだけという場合も多い。
しかし、記録はただあれば良いというものではない。特に、個人観察や異常動作などについては、個別の問題として自分の文章で記載する必要がある。そのためにも、基本的な記録の書き方、付け方を学ぶ必要がある。
2020年度以降は、コロナ禍の特例措置などもあって、法令解釈の複雑さが更に増している。コロナ禍の特例措置を使っている場合は、その根拠となる記録が特に重要となるため、再チェックをしておくべきだ。特例はあくまでも特例であって、本来の基準ではない。
さらに、介護職員の「処遇改善加算」と「特定処遇改善加算」の算定要件が毎年のように変わっているため、今一度の再確認が必要だ。