【即実践】チームを成長させるためにすべきこと 介護現場でも「タックマンモデル」を活用しよう=山口宰
介護現場のリーダーのみなさんとお話ししていると、次のような違いに直面することがあります。
優秀なベテランスタッフが揃っているのに、本来の力が出せていないユニット・部署がある一方で、新人や若手スタッフが多いのに、ひとりひとりの力を最大限に発揮して高い評価を得ているケースもある − 。
この違いはいったいどこから生まれてくるのでしょうか。今回は、そのカギを握る「チーム・ビルディング」についてご紹介します。【山口宰】
◆ グループとチームの違い
人々の集まり・集団や、共通の性質を持つ人たち、また同じ組織に属する人たちのことを「グループ」と言います。一方、全員が共通の目的や目標のために集まった集団で、達成のために力を合わせて行動するものは「チーム」と呼ばれます。
一見、同じように見える「グループ」と「チーム」ですが、仕事の場面で発揮する成果には大きな違いがあります。グループの成果は個人の持つ力の合計ですが、チームの場合、メンバーの経験や能力を組み合わせることによって、個人の力の合計を上回る成果を出すことが可能です。
◆ チーム・ビルディング
メンバーの持っている能力や経験を最大限に発揮し、目標を達成することができるチームを作り上げていく取り組みが「チーム・ビルディング」です。
チーム・ビルディングには、チーム作りのための研修やプログラムだけでなく、実際の業務を想定したリーダーとしての具体的な対応方法も含まれています。このプロセスを通じて、同じ目的を共有し、円滑なコミュニケーションを行い、力を合わせて行動していける人間関係を構築することができるのです。
介護現場でチーム・ビルディングを実践することのメリットには、次のようなものがあります。
【ビジョンの共有とチームの一体化】
グループをチームにするために最も重要なのが、「ビジョンの共有」です。
メンバー全員が同じ方向を向いて行動するためには、その先に同じ理想が見えていなければなりません。ビジョンを共有できれば、チームの一体感は高まり、目標達成に向けて協力し合う態勢を整えることができます。
チームでよい行動を実践し、成功体験を積み重ねていくと、ビジョンの重要性をより深く認識することができるようになるでしょう。
【信頼関係の構築とコミュニケーションの活性化】
チームとして仕事をしていくうえでカギとなるのが、メンバー間の信頼関係です。特に介護現場では、チームメンバーが長期的に固定され、人間関係が緊密になる傾向があります。
チーム・ビルディングのトレーニングを通じてコミュニケーション技法を身につけることにより、日々の業務の中で円滑なコミュニケーションをとれるようになります。チーム内でお互いの価値観や仕事に対する姿勢を深く理解し、仕事上の知識やノウハウが共有されるようになることで、チームの問題解決力や生産性の向上にもつながります。
【マインドセットの形成とモチベーションアップ】
チームの一員としての自覚が生まれてくると、チームの目標達成に適したマインドセット(物事の見方・考え方)が形成されるようになってきます。「チームのために」という意識が高まると、仕事に対するモチベーションがアップし、前向きな気持ちが醸成されるようになるでしょう。
また、チームの中で受け入れられているという感覚は、メンバーの「心理的安定性」にもつながります。職場の中に自分の居場所があるということは、離職を予防するうえでも重要なポイントとなります。
そして、チームとしての力が高まっていれば、大きなプロジェクトやトラブルに直面したときも、自信をもって取り組むことが可能になります。
◆ チームの成長とタックマンモデル
人が色々なステージを経て成長していくのと同じように、チームも成長していくことができます。
チームを目指す方向に成長させていくためには、成長段階に応じたアプローチを行うことが必要です。1965年、心理学者B.W.タックマンは、組織の成長の段階を示す4段階の「タックマンモデル」を提唱しました(1977年にもう1段階追加され5段階に)。
このようなモデルを学ぶことによって、チームが成長していく過程の各段階で、リーダーが取るべき対応方法を身につけることができるようになります。それでは、タックマンモデルの5つの段階と、それぞれの段階にとるべき対応方法について確認していきましょう。
【形成期(Forming)】
チームが結成されたばかりの段階です。まだお互いの人間性や能力、価値観などを把握していないので、不安や緊張を感じたり、探り合いながらぎこちないコミュニケーションが行われたりします。
この段階で大切なのは、リーダーがしっかりとビジョンや目標を提示すること。また、相互理解を深めるために、グループワークをしたり交流会を開いたりすることも効果的です。
【混乱期(Storming)】
チームでの活動がある程度進んでくると、メンバーひとりひとりの仕事の進め方や考え方の違いが明確になってきます。意見が対立したり軋轢が生まれたりしてくるのがこの時期です。
ここで大切なのは、リーダーが焦ってなんとかまとめようとしたりしないこと。逆効果になってしまう場合もあります。メンバー間でしっかりと議論を重ね、合意形成をすることが効果的です。
【統一期(Norming)】
さまざまな意見の食い違いや、仕事の進め方・考え方の違いを乗り越え、到達するのが統一期です。この段階になると、メンバーがビジョンや目標を共有し、同じ方向を向いて仕事を進めることができるようになります。
ここでリーダーに求められるのは、チームが正しい方向に向かっているか、随時チェックを行うこと。必要に応じて軌道修正をしながら、チームがより高いパフォーマンスを発揮できるように、導いていきましょう。
【機能期(Performing)】
ここまでの段階を経る中で、チームは多くの成功体験を積み、成長してきました。機能期では、チームが持つ力を最大限に発揮し、活動を行い、次々と成果を上げていくことができます。リーダーが細かな指示を出したり、軌道修正をしたりしなくても、メンバーが主体的に動き、チームが機能していく時期です。
重要なのは、この機能期をいかに長く続けることができるか、という点。リーダーは、メンバーの状態には常に注意を向け、サポートやメインテナンスにも力を入れることが必要です。
【散会期(Adjourning)】
どれだけ素晴らしいチームでも、同じメンバーで永遠に活動することはできません。短期的なプロジェクトであればチームは解散することになりますし、ユニットなどの固定されたチームでもメンバーの入れ替わりは避けられません。
ここで大切なのは「終わり方」。このチームでの経験や学びを次の場でも生かすことができるように、リーダーには前向きな声かけや雰囲気づくりをすることが求められます。
◆ 現状の正確な把握を
では、このタックマンモデルをどのように活用していけばよいでしょうか。まず大切なのは、いま、みなさんのチームがどの段階にいるかを正しく認識することです。
それぞれのステージで求められるリーダーの役割は異なるため、適切でないタイミングでアクションを起こすと、逆効果になってしまう場合もあります。逆に、現在のステージを意識することができると、リーダーとしての力をより発揮しやすくなり、リーダー自身の成長にもつながるでしょう。
特に、マネジメントの難しい混乱期をどう乗り切るかは、チームを成長させていくために重要なポイントです。目に見える衝突が起きなかったとしても、水面下で不満が蓄積されているというケースは少なくありません。
混乱期を「避ける」のではなく、成長のために必要なプロセスとして捉え、「乗り越える」ことで、チームを統一期・機能期のステップに進め、高いパフォーマンスを発揮することが可能になります。
みなさんのチームを前向きに成長させていくために、ぜひ参考にしてみてください。