来年度の介護報酬改定に向けた協議を重ねている審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)の今月15日の会合で、複雑さを増している報酬体系の簡素化、加算の整理がテーマの1つとなりました。【田中紘太】
厚生労働省はこの中で、制度が始まった当初と現在の加算数の比較を次のように示しました。これまでに大きく増加してきていることが分かります。
筆者は居宅介護支援のケアマネジャーとして実務に長くついていますが、給付管理を行う立場であっても、全ての加算要件を把握することは難しいと感じています。2021年度の介護報酬改定の際にも、例えば算定率の低い加算の一部廃止や統合などが実施されていますが、それでも種類が非常に多い状況は変わっていません。
一方で、主に算定されている加算は一部に限られます。今回の審議会の資料では、
◯ 2021年度から2022年度の平均算定率が80%を超える加算は12種類(延べ54種類)
◯ 2022年度に算定実績がない加算は20種類(延べ194種類)
◯ 上記以外で2022年度の算定率が平均1%未満(1月あたりの算定事業所数が平均9事業所以下のものに限る)の加算は41種類(延べ175種類)
などと報告されました。ほとんど算定されていない加算も少なからず存在する、というのが実情です。
◆ 強引に取ろうと思えば取れるけど…。
ほとんど算定されていない加算は居宅介護支援にもあります。厚労省の資料を基に事業所ベースの算定率を例示すると、
◯ 特定事業所加算(I)=1.3%
◯ 特定事業所加算(A)=0.8%
◯ 退院・退所加算(III)=0.6%
◯ 緊急時等居宅カンファレンス加算=0.2%
などがあげられます。筆者は実務者として10年以上ケアマネジャーをしていますが、今まで一度も算定したことのない加算もあります。
算定が進まない要因は様々だと考えられますが、中にはあまり合理的でない加算もあると言わざるを得ません。
例えば、居宅介護支援の特定事業所加算(I)。要介護3以上の利用者の割合が40%以上でないと算定できないため、事業所側の努力だけではどうすることもできません。弊社は居宅介護支援を6事業所で運営していますが、どの事業所も要介護3以上の利用者の割合は概ね35%程度となっています。
もちろん、強引に特定事業所加算(I)を算定しようと思えばできます。重度の方が多く入居しているサ高住や有料老人ホームを担当したり、軽度の方の依頼を断って重度の方を優先させたりして、収益重視の姿勢で介護度を調整すればいいだけです。事業所を2ヵ所に分け、軽度者と重度者をうまく振り分けるなどの対応も考えられるでしょう。
ただ、どの方法もご利用者様にとってのメリットがありません。居宅介護支援の倫理としてあまり好ましくないと思われ、自立支援・重度化防止の理念にも逆行すると懸念されます。要介護3以上の利用者の割合を要件にすることが、果たして本当に適切なのかどうか − 。筆者は首をかしげざるを得ません。
同様に特定事業所加算(A)も疑問点が多いです。例えば、
◯ 24時間の連絡体制、必要に応じて利用者の相談に対応する体制の確保が、他事業所との連携でも可とされていること
◯ 常勤の主任介護支援専門員1名、常勤の介護支援専門員1名、非常勤の介護支援専門員1名という人員配置になっていること
といったルールを取りあげさせて頂きたい。
夜間などの緊急時、他事業所のご利用者様の対応を求められた事業所が本当に対応できるのでしょうか。責任の所在が一体どうなるのか、非常に心配だと言わざるを得ません。
そもそも、常勤のケアマネジャーを3名確保して特定事業所加算(III)を算定すればいいのに、なぜこうした加算を作ったのでしょうか。理解に苦しみます。連携を組む事業所にとっても、あまりメリットのない仕組みと言わざるを得ません。
このほか、緊急時等居宅カンファレンス加算(*)も現場の実情と合っていません。
*緊急時等居宅カンファレンス加算=病院・診療所の判断でカンファレンスが必要となったケースで、医師または看護師と共に利用者の居宅を訪問して実際にカンファレンスを行い、必要な介護サービスの調整を行った場合などに算定できる。
病院・診療所からカンファレンスが必要と求められることは少なく、医師・看護師などと共に利用者の居宅を訪問することもそこまで多くありません。ケアマネジャーからの呼びかけでは要件を満たせないことが、この加算のネックになっていると考えられます。また、双方の予定を合わせなくてはいけない割に単位数が少ないため、積極的な算定が行われない状況と思われます。
居宅介護支援だけをみても、事業所が加算をうまく算定できない理由がこれだけあります。他のサービスも概ね同じような状況ではないでしょうか。
加算というインセンティブを設計することで、目指すべき方向性を示したり自立支援・重度化防止を促したりする目的は理解できます。ただ、加算の算定率が低いことにも相応の理由があります。そこは統合・廃止も含めて改善策を検討していく必要があるのではないでしょうか。
◆ 加算の新設・見直しに万全の備えを
来年度の介護報酬改定でも、様々な加算が新設されたり見直されたりするはずです。
介護事業者はまず、加算の趣旨を十分に理解する必要があります。それから費用対効果、職員の労力、要する時間などをしっかり検証することが重要です。無理なく算定できるもの、少し頑張れば算定できるものを確認したうえで、その後の事業運営を精緻に考えていかなければいけません。
長らく医療、介護、障害福祉の事業運営に携わってきた者であれば、こうした仕事も迅速にこなせるようになります。これに対応できない事業者は今後、経営が一段と厳しくなってしまうでしょう。加算を安易に取りこぼし、職員の賃上げや職場環境の改善を進められないなど弊害が大きくなるためで、早急に対応していく必要があると思います。